理科の部屋

2006年8月17日更新

---

科学を勉強する前に

科学はとても面白いです。役に立つたくさんの発明の土台になるだけでなく、自分が生きているこの世界がどんなところなのかを考えるヒントをたくさん与えてくれます。

例えば、ニュートン(Isaac Newton)という人は今から300年以上前に、物が下に落ちる規則と、月が地球の回りを回ったり、地球が太陽の周りの回る規則が同じように理解できることを発見(説明)しました。地球上の物と月が同じ法則で動いている。そんなことがわかるなんてすごいことだと思いませんか?

ニュートンの万有引力は物理学の例でしたが、その他にも化学反応/合成、細胞、生物、ヒト、地球、宇宙、様々な分野で科学的方法による研究が行われています。

ところで科学的方法とはどんなものでしょうか?科学的方法の特徴の1つに再現性があります。

「同じ実験をすれば、同じ結果が起こる。」

科学はこのような現象を対象にします。一回きりでは同じにならない実験で、何度も繰り返すことで規則性が出てくる実験もあるかもしれません。その場合には実験を繰り返すことまで含めることで科学の対象となります。

同じ実験をすれば同じ結果が起こるから、他の人がしても、他の場所でしても、他の時間にしても、同じ結果が得られます。だから、違う場所、違う時代に生きる他の人と同じ知識、同じ現象を共有することができます。

人と同じ知識を共有することができるのは素晴らしいことですが、一つ落とし穴があります。

科学を勉強し始めると、膨大な量の正しい知識があることがわかります。実際にはわかっていないこともたくさんあるのですが、たくさんのわかっていることを勉強しているうちに、今はわかっていないことがあっても最終的には科学はなんでも説明できるはずだという感覚を持つかもしれません。私自身はこのことは間違いだと思っています。

科学というのは、例えると、たくさんの将棋の棋譜から将棋のルールについて調べているようなものだと思います。

駒のそれぞれの動きや駒の数が変わらないという性質は物理学に対応します。矢倉を組んだりといった駒組みは化学っぽい感じがします。駒全体を使って攻め合うところは生物的と言えるかもしれません。

たくさんの棋譜から、ルールや最終的に決着へ向かう方向を調べることはできますが、一局のドラマについて必然的な説明をすることはできません。一局だけを見ても、そこには再現性がないからです。では一局だけ取り出しても意味がないのでしょうか?いえいえそこには科学がその研究対象にできないドラマ(意味)があるのです。

あなたの人生は再現するにはあまりに複雑である。だからあなたの人生は科学で予測することはできない。

実際、量子力学という物事の基本法則は、自然法則には原理的に避けられない確率的性質があることを主張しています。量子力学は再現性のある実験に対しては統計的な答えを出すことができますが、再現不可能な事柄に対しては何も予言できません。意外と人の自由意思とはこういう余地から生まれるのかもしれません。

自然科学で発見された法則によって、あなたの将来が決められたものになることはありません。

Enjoy Science!

 

参考文献

1.         S. W. Hawking, 「時間順序保護仮説」 ISBN4-87188-150-4 “IS EVERYTHING DETERMINED?,” “EINSTEIN’S GENERAL RELATIVITY AND QUANTUM MECHANICS,” “THE CHRONOLOGY PROTECTION CONJECTURE”

2.         Roger Penrose, 「皇帝の新しい心」 ISBN4-622-04096-4 “THE EMPEROR’S NEW MIND Concerning Computers, Minds, and the Laws of Physics”

3.         Murray Gell-man, 「クォークとジャガー たゆみなく進化する複雑系」 ISBN4-7942-0774-3 “The Quark and the Jaguar  ADVENTURES IN THE SIMPLE AND THE COMPLEX”

4.         David Deutsch, 「世界の究極理論は存在するか 多宇宙理論から見た生命、進化、時間」 ISBN4-02-257409-7 “THE FABRIC OF REALITY”

 

ホタルの光(工事中)

私の住んでいるところは水がきれいなようで、季節になるとホタルを見ることができます。はかない光が幻想的です。

どうやって光る?

ホタルが放つ光は、そのエネルギー変換効率が97%程度だそうです。ちなみに、効率がよいと言われる蛍光灯でさえ、変換効率は25%程度であり、人工照明は効率の面で生物に全くかないません。

蛍は、下記の反応で波長500〜600nmの光を放射します。

1.         ホタル・ルシフェリンとアデノシン3リン酸(ATP)が、ルシフェラーゼとマグネシウムイオンを触媒として、ルシフェルアデニレートとピロリン酸に反応

2.         ルシフェルアデニレートとピロリン酸が、ルシフェラーゼと酸素を触媒にして、ルシフェリンアデノシンリン酸と酸素に反応

3.         ルシフェリンアデノシンリン酸と酸素が、ルシフェラーゼを触媒にして、酸化。ルシフェラーゼの種類によって、ルノール型、ケト型ジアニオンが形成され、それぞれ、黄緑、赤の光子を発する。

変換効率の高い反応ですが、照明に使われることはなく、食品メーカでATPとの反応を利用した微生物検出に使われたりしているそうです。

ルシフェリンとATP、ルシフェラーゼは教材として中村理科工業(株)から購入することができます。

なぜ光る?

 

気圧について

山登りの際の経験を基に、気圧について考えて見ましょう。

山登りへ行く時には、気候に関していくつか注意することがあります。

l  平地に比べて涼しいので、防寒着を用意する。

l  高山病(気圧が低いための酸欠による体調不良)にならないようにゆっくり動く。

山へ行く準備が示すように、山は、平地に比べて気圧が低く、涼しくなります。定量的に示すと、以下の経験則が成り立ちます。

1.         (対流圏では)標高が100メートル高くなると0.65度気温が低くなる。

2.         16キロメートル高くなると、気圧は10分の1になる。

最初に、経験則1について考えてみます。

地上の空気が暖かいのは、太陽からの光のためです。日光が当たるとエネルギーが熱に変わるのですが、空気は透明なので、まず日光が地面に当たり、地面が暖かくなります。その熱で空気が暖かくなります。従って、空気は下から熱せられていると考えることができます。下から空気を熱すると暖かくなった空気は膨張して軽くなります。そして軽くなった空気は上昇し、上の温度の低い空気が降りてきます。このような大きな空気の流れが起こっている領域が対流圏です。対流圏は地上から1キロメートルの高度まで広がっています。

対流圏は熱平衡状態(温度が同じになること)にないことが特徴です。では、どんな状態なのでしょうか?

仮定:対流による空気の移動が、回りの空気との熱のやり取りよりも速く、断熱的な運動である。

高さhにある体積V、温度Tの1モルの空気が冑だけ上昇して、体積が儼だけ変化し、、温度が儺だけ変化したとすると、断熱変化という仮定から、された仕事と内部エネルギーの和はゼロになります。

ここでCVは体積を一定に保った時の比熱(1グラムを1度上げるのに必要なエネルギー)です。Mは空気の平均分子量(1モルの重さ(グラム))。

これ以外に、空気はほぼ理想気体に近いので、状態方程式がどの高さでも成り立つと仮定できます。

Rは気体定数。高さが冑だけ変化しても上の式は成り立つので、

が成り立ちます。

また、重力と圧力の釣り合いから、

が成り立ちます。ρは空気の密度、gは重力加速度。

V, 儺, 冪, 冑を未知数と考えて、3つの連立方程式から、儺/冑を求めると、

 

ρV=Mだから、

 

 

ここでCpは圧力を一定に保った時の比熱です。上の式から、100mで約1度、温度が低くなることになります。経験則とかなり近い値が出ました。

 

圧力の単位

気圧というのは空気の圧力のことです。

圧力の単位は、国際単位系(SI単位系)では、Pa(Pascal「パスカル」)です。1Paは1mに1N(Newton「ニュートン」)の力が掛かることと同じです。

1960年に国際度量衝総会という会議で、国際単位系が決定されました。SI単位系はフランス語でLe Systeme International d’Unitesの略です。

天気予報でよく出てくるhPa(hecto-Pascal「ヘクトパスカル」)は100Paのことです。国際単位系ではありませんが、昔は天気予報でb(bar「バール」)という単位が使われていました。1bは1000Paを意味します。従って、1hPa=1mb(milli-bar「ミリバール」)です。

1気圧は、地球表面の平均気圧で、約1013hPaです。これより高いと高気圧、低いと低気圧と考えるとわかりやすいでしょう。

気圧は、水銀柱を用いた測定器が普及していたため、水銀柱の示す高さmmHgでも表現されることがありました。1気圧=760mmHgとなります。

 

相対性理論初めの一歩

相対性理論はアインシュタイン(Albert Einstein)という人が構築した空間と時間に関するとても美しい2つの理論です。1つは光をキーにしたもので、特殊相対性理論と呼ばれています。1905年に発表されました。もう1つは重力をテーマにしたもので、一般相対性理論と呼ばれています。1912年に発表されました。

相対性理論の美しさがうまく伝えられるかわかりませんが、その魅力は、たった1つの不思議な実験事実と誰もが納得する仮説からいくつかの説明のつかなかった現象に説明を与え、想像さえしなかった色々な現象を予測しただけでなく、人が自分の存在する世界として常に意識してきた空間と時間に関して、直感的に意識されたものとは全く異なるものであることを提示した点にあります。人間の歴史の中で最も偉大な想像力の象徴として揺るぎないものでしょう。

特殊相対性理論

特殊相対性理論は光をキーにした理論です。光をテーマにしたのではなく、光をキーにしました。アインシュタインさん以前の多くの人たちが光をテーマにたくさんの面白い発見をしました。その話はまた別の機会に。

光速度不変の原理

ここではアインシュタインさんがキーにした光の速さだけに絞ります。光の速さは、1676年にレーメル(Ole Christensen Römer)という人が初めて計算しました。レーメルさんは天文学者で、木星の衛星を観測した結果が地球と木星の距離に依ることから光の速さを計算したそうです。

(脱線コラム)

相対性理論の紹介で、光に近い速度で移動していると回りの景色が曲がって見えるという解説がよくされていますが、光の速さが無限に速いものではなく、有限の速度だからという面が大きいです。必ずしも相対性理論の特徴というわけではないと思います。

なぜ曲がって見えるかを下の図で説明します。

二本の縦棒が奥からあなたの両横を通り過ぎようとしていると考えてください。棒の中央は棒の端に比べてあなたの目に近いところにあります。イメージが沸かなければ、高いビルディングを思い起こしてください。地上からビルを見ると、1階は近くて屋上は遠いですよね。さて、棒の端はあなたの目から遠いので、棒の中央から出た光と同時にあなたの目に入る棒の端の光は、棒の中央から出た光より早めに棒から出たはずです。ということは棒の端の光は少し前の位置(奥)から出ています。だから、あなたの目に同時に入る光が棒から放射された位置を集めると青い線のような形になります。曲がってみえますね。

1849年にはフィゾー(Armand Hippolyte Louis Fizeau)という人が初めて実験室で光の速さを測定しました。1881年にはマイケルソン(Albert Abraham Michelson)という人が高い精度で光の速さを測定しました。

マイケルソンさんは光の速さは観測装置の動きによって違う値になるだろうと予想しました。

時速40kmで走っている2台の車が交差点で衝突する場面を想像しましょう(あまり想像したくないですが・・・)。正面衝突の場合、車から相手を見ると時速80kmに見えます。横からの衝突の場合、ちょっと難しいですが、40*√2≒57kmに見えます。

光は非常に速いので、光の速さの違いを測定するためには、観測装置をよほど速く動かす必要があります。そのためにマイケルソンさんとモーレイ(Edward Morley)さんは地球を使いました。地球は太陽の周りを秒速30kmの速さ(1秒間に30kmです)で回っています。これは光の速さの1万分の1で、マイケルソンさんの発明した測定器で十分違いがわかるはずでした。

ところが、計ってみると光の速さに違いがありませんでした。どの方向の光も同じ速さだったのです。

多くの人がなぜ同じ速さになるのかを説明しようとしましたが、アインシュタインさんは説明しようとせずに基本法則として認めてしまいました。

なぜかわからないけど、光の速さは誰から見ても同じ速さである。(光速度不変の原理)

これを認めることは大変なことでした。ある光を二人の人が測定するとします。ある人はもう一人から見て光に向かって進んでいる状況でも、二人の測定結果は一緒になるのです。

同時刻の相対性

アインシュタインさんは、特殊相対性理論を構築する上で、上に書いた光速度不変の原理の他に、もう1つ基本法則として認めました。それは、ガリレイ(Galileo Galilei)という人が見つけた相対性原理です。その中身は、

「一定速度で動きながら見ても物の動く規則は同じである。」

というものです。相対性原理というと難しく聞こえますが、経験を思い出せばわかりやすいです。例えば、時速200kmで走っている新幹線の中でキャッチボールをすることを想像しましょう。実際の新幹線では揺れるので勝手が違うと思いますが、揺れさえなければ、地面でキャッチボールをするのと同じ力加減でボールを投げるはずです。それでうまくいきます。「今、新幹線が200kmで走っているから・・・」と難しく考える人はいない。これはボールの動く規則が200kmで動いていても一緒だからです。アインシュタインさんも相対性原理は正しいと考えました。更に一歩進んで、アインシュタインさんは絶対的な基準と呼べるものは存在しないと考えました。先程の例えでいくと、新幹線に比べると地面は絶対的な基準に思えます。しかし、それは地面(地球)が新幹線に比べてとても大きいからそう思えるのですが、大きさの差だけであって、絶対的な基準ではないと考えました。

光速度不変の原理と相対性原理の2つが正しいとすると、とても不思議なことが導かれます。

下の図のようにAさんの左右同じ距離に鏡が置いてあるとしましょう。Aさんが鏡に向かってライトを光らせました。

光は「同時」に鏡1、鏡2に到着し、反射します。

反射した光は同時にAさんに届きます。

これを、鏡1から鏡2に向かって走っていたBさんが見ていました。Bさんはたまたま、Aさんが今反射したと思った瞬間Aさんの近くを通り過ぎました。

Bさんには鏡1、2が動いて見えるのですが、Aさんとすれ違った瞬間はBさんから鏡1、2は同じ距離にあったはずです。

ところが、当然、Bさんは鏡2の光を先に見て、鏡1の光を後で見ることになります。

Bさんにとって同じ距離から出発した光が同時に到着しない。光速度はAさんでもBさんでも一緒ですから、ということはBさんにとって鏡1、鏡2で反射した時刻は同時ではなかったということになります。

互いに動いているのに、同じ光を見るとその速度が一緒に見えるということは、ある人にとって離れた場所で同時起こったことが、別の人には同時でないということになります。

---

Copyright © 2001-2002 ICHIKAWA, Yuji